2017年7月16日日曜日

ある男の物語り 帰省ならず

6月のボーナスで、やっと帰省可能の貯金が出来たT。

予定していた使途は、2泊の帰省と、壊れてしまった電気シェーバーを買うことだった。

行きは夜行バス。安宿に2泊して、帰りは新幹線。そして滞在費。

今月の5日、先に姉から希望されたパシャマなどを送り、その送料、チケット代、宿泊予約をしてから、量販店でシェーバーを買ってくるとの事で、通帳とカードを渡した。

 数日おきに、手配は済んだの?と訊いていたのだが、返事はまだだとの事だった。
今朝は、シェーバーを買って、通帳とカードを戻すように伝えた。

先程帰宅したのだが、手ぶらだ。

買わなかったの? 帰省は27日からよね? 混む時期だから空きが無くなるんじゃない? と訊ねた。

T「和歌山は止めました。そんなに重病じゃないからさ。」

アタシ「あら!そうなの? 何十年振りかで和歌山のお土産楽しみにしてたのに。 ヤドリギにも送るよって言っちゃったのよ。」

そのようなやり取りの後に、Tは言った。

「郵便局の通帳は自分で管理しますから。」

アタシ「そういうわけには行かないの。3月にギャンブルに使ってしまった時にも伝えたよね? 債務を完済するまで、家計は私が管理するって。同居する時によく話し合って決めた事。 決めた事は守らなければ意味がないのよ。 貴方が貯金を使い果たしてしまうとね、家計からお金を捻出しなければならない事態も起こるかもしれないの。 それは出来ないの。 これはね、約束なの。解る? 私は、私自身と約束をしているのよ。 決めた事を守る約束を自分としているの。私は私を裏切らないのよ。」

Tから通帳とカードが戻された。

残高 1566円になっていた。

チケットも無し、宿泊予約もされず、電気シェーバーも無い。
では、ボーナスで貯めた8万円は何処へ羽ばたいていったのであろうか。

スロットマシンの餌代に消えたのだ。

会うのを楽しみに待っていたであろう故郷の姉、お土産を楽しみにしていたアタシと大きい姉さん。
ヤドリギのオトウとSちゃんだって、知らぬ土地の銘菓を楽しみに待っていてくれたと思う。

そういう人々の気持ちを慮る事をせずに、ギャンブル依存症に冒された脳は、貯金の殆んどを機械に食べさせてしまったというわけだ。

「無くなっちゃったから、帰省出来ないね。じゃ、また通帳とカードを預かるね」

使途は訊かなかった。
何か言われると思っていたらしいTは、急に明るい顔になり、机に置かれた おかきをポリポリと食べながらテレビを見だした。

「今日は孫のマコシンと留守番をしたんだよ。たくさん喋って楽しそうだった。小さい姉さんも来たんだよ。ヤドリギからいただいたおかきだよ、それ。」

返事が無い。
イヤホンをしているのだ。本当はイヤホンをしていても聞こえている。
聞こえないふりをするようになっている。

帰省ならず。

電気シェーバーはどうするのだろう? T字の髭反りで済ますのか。

私は守らなければ。
私が私自身と交わした約束を。

今日も無事に暮れました。
キョウモブジニクレマシタ。

明日も無事に暮らしましょう。
アスモブジニクラシマショウ。

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子鹿のバンビ

 ヤドリギ近くのゴルフ場に、子鹿のバンビが現れたって。 痩せて見える。可愛いけど可哀想。沢山の餌が見つかりますように。