2017年7月28日金曜日
ある男の物語り 逆説的手法で導き出された答え
Tの職場では、年に1回、メンタルヘルスチェックが行われている。
結果は自宅に郵送されて来る。
まず、客観的に診た身体の不調感。
全く問題なく、絶好調の100%に近い。
マイナス思考、心配や不安、それらを含め、全て平均を上回る値だ。
職場での孤立感と、飲酒のトラブルの二点が、平均より若干下回っているが 、気分の安定傾向に至っては、これも100%に近い。
2枚目は仕事への活力の傾向だ。
自分自身への評価は高いが、粘り強さ、仕事に対する取り組み方、几帳面さ、全てが平均を下回っている。
3枚目は、職場の環境だ。
この仕事が自分に適していて、更に、職場で評価されているという満足感が非常に高い。
平均を下回っているのは、チャレンジ精神と、将来への不安だ。
最も低かったのが、家族との関係であった。
最後にアドバイスが書かれている。
[慣れ親しんだ物以外への興味が低い。 芸術等へ関心を向ければ、より楽しい生活になる。
面倒に感じる事を避けて、誰かがやってくれれば楽だと思っていたら、経験も自己管理も出来ない。自分の事は自分でやりましょう。
マイペースは決して悪くは無いが、スピードが求められる仕事に対応出来るようにする事も必要。]
以上だった。
Tは、お正月の3日から、1日も休みを取っていない。
風邪で半休した日が1日あったきりだ。
おまけに、早く出かけて、帰りはほぼ九時過ぎなのだ。
通常ならば、過労死だ。
にもかかわらず、身心ともに好調であり、疲労感も無く、気分が安定しているわけだ。
それなのに、仕事への活力が低い。
相反する非常に奇妙な結果だ。
逆説的手法で考えてみることにした。
Tは職場が好きで、とにかく出勤する。
休む方がストレスなのだ。
たまには休めば?と言っても、休まないので言うのを止めてしまったくらいだ。
しかし、仕事が忙しいわけでもなく、特に意欲的なわけではない。
職場が好きなのと、仕事が好きなのとは、通常はほぼ同じなのだが、Tは、職場に居る事が好きなのであって、仕事が好きなわけではないのだ。
むしろ、誰かがやってくれれば楽だと思っている。
休みが無いわけだから、当然、家に居ない。
家族との関係の値が低いのは当たり前だ。
つまり、Tにとっては、職場が家なのではないだろうか。
上司や同僚、部下が家族だ。
そして、家庭は職場なのだ。
アタシは上司であり、大きい姉さんは、ライバルのような同僚だろう。
家庭という職場では、細かいお金の計算もあり、規律が厳しい。
お風呂に入る、着替える、食事をする、片付ける、寝る、全て仕事なのだ。
債務返済プロジェクトチームに配属されてしまったような感覚だろうと思う。
こう考えると、今回の結果に納得が行く。
通常であれば、成立しない状態だ。
何故成立するのか?
それは、職場が、Tの在り方を認めているからだ。
そのくらい、特殊な職場だという事になる。
実際に、Tがギャンブル依存症だと知っている人が職場に居るが誰も咎めない。
極端に所持金が少ないことにも気付いている筈だ。
それでも、飲みに誘い、度々飲み代を立て替えてくれる人まで居る。
温か過ぎる目で見守り、給与までくれるのだ。
ギャンブル依存症を克服する為には、共依存者に対抗する必要がある。
共依存者から自立しなければならない。
Tが対抗しなければならないのは、職場なのではないだろうか。
あまりにも甘やかし過ぎだ。
Tが、ギャンブル依存症を自覚し、底を経験するとしたら、この職場を退職した時だと思えて仕方がない。
職場という大切な居場所と家族を失う事になるからだ。
家庭という職場の方も退職だ。
もしも再雇用があったならば、それは約8年先という事になるのである。
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