2017年7月12日水曜日

脱皮


 まだ聴こえぬが、都心では、蝉時雨が始まれば晩夏である。

短歌を詠んでみたいと思うようになって数年経つが、
たった三十一文字の世界は、書き殴り派にとって、
憧憬と言っても過言ではないほどの遠さだ。

どれだけ言葉を削り、残すか。
 残した言葉に、魂を込められるか。

歌を詠む和裁士のAさんが言っていた。

「短歌は生みの苦しみよ。
句会などに参加しようものなら、とにもかくにも、三首くらいは詠まねば話にならないの。
なんとか詠んだって、情け容赦なく バサッとダメ出しを食らうのよ。」

削りにけずって詠んだ歌を、バサッと斬り捨てられたりしたら、
すっかり言葉に見放されたような気持ちになってしまうかもしれない。

  夏になると声に出して詠む短歌がある。

 故  河野裕子 さんの歌だ。

脱皮とは 一気におのれを裂く力 背をたち裂きて 蝉がおのれ生む


おのれを裂かなければ生まれない己があると解ってはいても、
人はおのれを裂く事に躊躇する。
躊躇するならば、いっそのこと、現状に甘んじる代わりに、
愚痴も吐かなければまだ良いが、ウダウダと不平不満を並べ立てる。

この短歌を詠んだ時に、蝉ごときに負けてたまるかと思った。

蝉が一度の脱皮で羽ばたいて行くのならば、人間のアタシは、
何度だって脱皮してやろうと思った。

余力を残して命を終えたくはないからなのである。

こんな話をすると、大きい姉さんは呆れた顔をしながら言う。

「あっちに行ってもさ、まだ喋り足りない事でもあったら、何でも良いから合図ちょうだいよね」

ポルターガイスト現象ってやつか。
やったるヤッタル。

部屋ごと揺さぶったる。

あ、一句浮かんだ!

我先に 行きし後に泣くなかれ    ポルターガイスト 天国通信

バッサリ !

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