フェイクファーのコートの裏地を点検していて、改めて、職人の技は素晴らしいと感激した。
これは半世紀以上前の和装用で、イングランド製だ。
イギリス人が着物を着る筈はないから、日本のメーカーさんが、イングランドに別注していたのだと思う。
それは多分、裏地の良質な生地が日本には無く、それから、コートに裏地を付ける技術が、日本よりも向こうの方が優っていたからだと思う。
表と裏を縫い付けた部分に、裏と共布で飾り縫いが施されていて、良く見ると、これが全部手仕事で仕上げられている。
随分と手間も根気もいる仕事だ。
コートの老舗は、バーバリーやアクアスキュータムに代表されるようにイングランドに多いから、素晴らしい職人も沢山居たのだろう。
日本の和裁士さんの技術も素晴らしいが、それは、幅40センチあるかないかの反物を、ほぼ直線に手縫いして行く技であり、コートのように曲線裁ちがある物や飾り縫いの技術とは違っている。
海の向こうの国に別注してまで、良い商品を作ろうと考えたメーカーさんがあった事も、異国の不思議な型紙に合わせて、それを仕上げた職人さんが居た事も、想像すると感慨深いものがある。
そこには、安い手間賃で大量生産しようという考えは無く、数は少なくても、堅牢で良質な商品を作りたいという熱意が感じられる。
このようなコートは、戦後の庶民には高価で買えるような物ではなくて、一ヶ月分のお給料をはたいても、買えなかったそうだ。
職人技を駆使したコートは、全く傷みも無く、こうして手元に健在である事に感謝しなければと思うのである。
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