八百屋のおばちゃんが、店の片隅に腰掛けて、油彩を眺めて居た。
飛行機の機内から見下ろした、雲海に富士山が描かれて居た。
おばちゃんは、休みになると何万円もパチンコに費やしてしまうのだが、絵画の趣味がある。
やっと描き上げて、描いていた間は、なんとかパチンコをしないで過ごせたらしい。
描き終わると、すぐには次の絵に取り掛かれないから、また今週末が怖いのだ。
白と青の2色で描かれた油彩は、爽やかできれいなのに、おばちゃんの心は晴れない。
息子も、呆れて止めないから、おばちゃんは一人で悩んでいる。
「描き上がっちゃったんだよ。どうする?ねぇ、どうしようか…」
せっかく爽やかな色調で描かれた油彩が、金色の装飾された額縁に収まっていた。
「マットの幅を広くしてさ、もっとシンプルなシルバーの額にしたらどう?そうしたら絵に広がりが出て、もっと見栄えがするよ」
そんな事を10分ほど話したら、おばちゃんの目が輝いた。
日曜日に額縁屋さんに行って、合う額を探してくる気になったようだ。
ひと言で額縁と言っても、何でも良いかと云うとそうではない。
描き上げた油彩は、額を変えれば随分と雰囲気が変わるものだ。
額装にも結構なお金がかかるが、パチンコに使うよりはずっと良いお金の使い方だ。
おばちゃんの人生はもう後半戦だから、それはアタシも同じだけれど、いつかは、人生という絵を額装して締め括らなければならない。
どんな額縁が似合う人生になるかは分からないけれど、自分らしい仕上げをしたいと思っている。
今週末のおばちゃんのスケジュールは決まったから、次に描きたい物を、また描き続けて、今年を乗りきって欲しいと願っている。
不安そうなおばちゃんを見ていると、心が痛む。
おじちゃんの入院から、もうじき2年だ。
寝たきりで、段々衰弱しているそうだ。
おばちゃんには、いつも笑顔でいて欲しい。
やり場の無い悩みがたくさんあっても、やっぱり笑顔でいて欲しいと願っている。
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