観てよみてよと呼び止められた。
八百屋さんの奥に、おばちゃんの油彩が置いてある。
金色の額に入れてあったから、白にしたら良いんじゃない?と言ったのを覚えていて入れ替えたらしい。
飛行機の窓から見下ろした富士の絵だ。
脳血栓で倒れて、寝たきりになってしまったおじちゃんが座っていた場所で、おばちゃんは毎日、野菜を計りにかけて袋詰めしている。
そして、ゴルフにも行けなくなってしまったから、日曜日にはパチンコをしてしまうのだ。
これではいけないと思っているから、好きな絵を描いたりして時間をやり過ごそうと必死なのである。
白い雲から覗く山頂には、雪が積もっている。
ゆっくり描こうと思っても、描いてしまうから、また時間があまってしまうと憂鬱そうだ。
近所に息子家族がいても、広い家に帰れば一人になってしまう。
もう少し大きめの額に入れて、マットの巾を広げたら、ぐんと広がりが出るからそうしたら?
そう言ったら、次の日曜日には額装屋さんに行ってみようかねと空笑いした。
おじちゃんが倒れてからもうじき2年だ。
病院に行っても、もう目を開ける事もなく眠っていて、仕方がないからすぐに引き揚げて来てしまうのだそうだ。
おばちゃんの油彩に寂しさが散っている。
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