2019年11月10日日曜日

ある男の物語 駄々ゴネ老人

思い通りにならないと駄々をこねる。
まるで子供のようにゴネてゴネまくる。
これは若い頃からの事だけれど、還暦を過ぎた男が駄々をこねる様子は異様である。

初めては、結婚した時だった。
経済の基盤は必須だと話し合い、結婚を機に、お互いに演劇の世界から足を洗う約束をして入籍したのである。
しかし、その後もやめる気配は無く、ゴネが始まった。
生活を支えていたアタシは、どうぞと言わない。
そうしたら、ある日、劇団の先輩数人を伴って帰宅し、アタシを取り囲んで説得を始めた。
アタシは妊娠中で、その後流産したのである。

そんな不安定な中で、長女が産まれた。
大きい姉さんである。
産前は妹が泊まりがけで手伝いに来てくれた。
何故ならば、Tは、芝居の地方公演で不在だったからだ。
大姉さんが産まれた日も、まだ帰京していなかった。
退院数日後に見舞いに来て、不思議そうに新生児を眺めていた。
それから、お見舞いで頂いたお菓子や果物を食べて、なんと!残りを持ち帰ってしまった。
退院後数日して、また地方に行ってしまったのである。

産後1週間検診の後に、アタシは実家に里帰りをした。
そうして、母子家庭状態が続き、やっとTが戻った時には、大姉さんは3ヶ月になっていたのである。

演劇から離れる事に決まった時には、大姉さんが1歳半になっていた。
世の中はバブルで、六畳と三畳ふた間のアパートの家賃がじわりじわりと上がり始めたのである。

そうしてやっと今の職場に採用され、同時に郊外の団地に入居した。
そこで小さい姉さんが生まれたのである。

子供達が成長する間にも、小さな駄々が続いていた。

そういう人なのだと思えば、あしらい方にも慣れてしまうものだ。

しかし、別居後に正式に離婚をし、今回の同居で、その駄々ゴネを久しぶりに見て、年齢との落差に驚いてしまった。

退職を目前に控えた今、また最大級のゴネが始まったのである。

独立資金の金額だ。
この同居中に話し合っていた金額の、5倍以上をよこせと始まったのである。
オマケに、アタシには1円も渡さないと言う。

少しの上乗せではなく、5倍以上。
Tは、大姉さんと話すのが苦手だから、アタシしか居ない時を狙ってゴネるのである。
睨むは吐き捨てるは脅すような口調になるはで、アタシはすっかり疲弊してしまった。

そこで、弁護士先生との相談後、Tが最も苦手とする 大きい姉さんに交渉役の白羽の矢が立ったのである。

昨日夕方の事。

先生と大姉さんが電話で話し、状況を把握してもらった。

どうなるんだろうと、不安な気持ちで布団に潜り込んでいたら、深夜1時に、大姉さんが帰宅して来た。
忙しく、毎日深夜に帰宅するのである。
いつどんなタイミングで、Tと対峙するのかを決めなければと思っていたが、その時既に大姉さんは、今から始めますよ という目付き顔つきになっていたのである。

えっ!今からですかい?と思う間もなく、消灯していた部屋の電気がつけられた。

アタシは、怖がるパズーが発作を起こしやしないかと、ウロウロするしかない。
つまり、パズーが怖がる程、Tと大姉さんが向き合うのは凄まじいのである。

いびきをかいて寝ていたTが
叩き起こされる。

落とし所はどこなんだろう?
先生から、妥協出来る金額を聞いているはずだから、アタシは、Tの無謀な増額要求がどこまで落ちるのか、はたまた、流石の大姉さんも苦戦するはずだから、援護しなければと構えていた。
しかし、アタシが発言しようとすると、
アナタは黙ってて!と、大姉さんに言われてしまった。

ヘイヘイ、引っ込んで居りまする。

しかしである。
一向に減額交渉が始まらない。

大きい姉さんは、Tの希望額を、1円たりとも受け付けず、突っぱねて突っぱねて、ゴネるTに詰め寄り、反論の余地も与えず、徹底抗戦で追い詰めて行った。

後半戦で、大姉さんの作戦を理解したアタシは、もう結末がわからなくなってしまって、リビングの床に転がってみたり、また立ち上がってTの様子を隙間から見たり(寝起きを急襲されたTは、ベッドから立ち上がる時間も与えられなかったから)
チョロリと口を挟んでは、また大姉に静止されたりを繰り返していたのである。

すると、暫くして灯りが落とされた。

交渉は持ち越しか。

二言三言の会話の後に、また電気がつけられた!

再開か!再開なのか!

しかし、その時にはもう、Tが一筆書かされていたのである。
大姉さんから朱肉を受け取り、捺印までしている。

一切の増額無しで結構です というような内容が記してある。

今朝は、早々に、その内容を先生にメールで知らせ、念の為に、T
が書いた紙を画像にして添付した。

ゴネ以外に、Tには、決めたことを翻すという部分がある。
また何を言い出すかわからない。

しかし、帰宅したTは、憑物が落ちたように静かにはなっていて、この10日ほど続いていた険しい目つきも元に戻っていたのである。

諦めたらしい。
大きい姉さんには太刀打ちが出来ないから、駄々ゴネをやめたようだ。

今だ!今が最後のチャンスだ!
一気に合意書作成だ!

果たして、予定通りに年内に公正証書が完成し、独立なるか!?

 事実婚解消協議 大詰めを迎えでいるのである。

あぁ。。消耗するよ。

大きい姉さん、立派に育ってくれてありがとう。

貴女に勝てる男はいないと思いますので、独身を貫いて下さいね。

つづく

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