2017年3月26日日曜日

ある男の物語り 横領

3月に入ってから、Tはよくため息をついていた。夜中になってもなかなか寝付けずにキッチンで一服していると、わざわざ起きてきて、アタシの前でため息をついたり眉間にシワを寄せてうなだれた様子を見せる。そういう時は、アタシは早々に寝床に戻るようにしている。大きい姉さんが居ないか、或いは寝ている時だけの行動なのだ。今日は帰宅してご飯を食べ始めたと思ったら、Tが言った。「僕の郵便局のキャッシュカードかしてくれませんか?」

アタシ「何に使うの?出張の時にまた1万引き出したでしょ?記帳したらまたマイナス増えてもう1万そこそこしか無いよ、判ってると思うけど。」
しばらく沈黙の後に判明したのは下記の事です。

職場が本を出版して、60冊預かった。仕事の講演などの際に、宣伝販売をする目的で。本は1冊2千数百円。売れた場合は、代金を回収して職場に払う。 その本をTは何冊か売った。そして、回収した数万でギャンブルをした。したがって、職場に支払わなければならない代金が無い。何故なら、ギャンブルは負けて摩ってしまったから。
在庫の本が減っているのに入金が無い。支払わなければ使い込んでしまった事がバレてしまう。

Tがギャンブルを止めていない事は知っていた。予備資金から出して立て替え払いしている交通費等が戻らず、使途不明金がかさんでいるからだ。
小遣いの残りを貯める小銭入れの瓶も一向に増えず、むしろ減っている。

小銭を貯めるも貯めないも、アタシには関係が無いし、せっかく貯めた郵便局の貯金が無くなっても、やはりアタシには関係が無い。しかし、今回は、職場に渡すべきお金の使い込みだ。数万でも、これが明るみに出たら横領罪である。横領罪には罰金刑は無く、逮捕されれば10年以下の懲役。実刑だ。

郵便局の貯金全額と、今月の小遣いで使い込んでしまったお金を支払う事にさせた。
当然ながら小遣いが足りなくなるであろう。しかし、それもアタシには関係が無い。タバコを買わなければ良いし、缶コーヒーを買わなければ良いだけだ。衣食住はあるのだから。

アタシは自分でも驚く程に冷静で冷めている。
家計の管理と家事全般を担う事はこなしているし、2年9ヶ月後には、その任務を終えて、Tとは完全に縁を切る事に決めているがら。 Tがホームレスになったとしても、以前のような情は全く湧いて来ない。
ここに転がり込んで来て1年と少し。 その間に何度も繰り返されかたバカバカシイ出来事 。 この先2年9ヶ月にも繰り返されるであろう。

お財布、食費や予備費が入ったポーチ、アタシの通帳や印鑑、さらには貯金箱までを隠しながらの暮らし。 読者の皆さんには伝わらないかもしれないけれど、病人であり、ギャンブル依存症であり、犯罪者、ホームレス予備軍を寝泊まりさせている心もちなのだ。
Tが居なくならない限り、アタシの心に平穏が訪れる事は無いのである。

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空いてるトップス

買い物帰りにカフェに寄ろうとしたら、どこも待ち人だらけ。 西武百貨店のトップスは、大抵空いてるし、安心の美味しさだね。 一瞬、季節限定のマロンケーキに心が動いたけれど、定番のチーズケーキにしました。 チーズケーキは酸味強めが好き。