おやゆび姫は、マルエツの前にあるお直し専門店。
数ヵ月前に、アルバイトパート募集の貼り紙が出ていた。
それからすぐにその貼り紙が無くなり、中を覗いて見たら、男性がミシンを踏んでいた。
それまでは、縫製が出来る主婦が数人働いていて、いつも忙しそうにしていたのだけれど、どうもこの男性が、相当仕事が出来るようで、女性スタッフの休憩時間が大幅に増えたようなのである。
年は30代後半から40代、ロン毛を首の後で1つに束ねていて、エプロンの制服もよく似合う。
興味があるので、通る度に覗くのだが、確かに腕が良さそうだ。
アパレルからの転職にしても、かなり場数を踏んでいる事が判る。
客足も伸びて大繁盛だ。
おやゆび姫の王子大活躍なのである。
その昔、文化服装学院を出た若いデザイナー希望の男性が、アタシの職場に出入りしていた。
腕は良かったのだが、なにしろ無口で、なかなか希望のメーカーやブランドに就職出来ずに居たのである。
そうそう、名前は一色(いっしき)君。
文化服装学院では、縫製が出来る男子生徒は皆な、自分の恋人の服を作っているというような興味深い話をボソボソと聞かせてくれた。
一色君にも可愛らしい彼女が居て、次の誕生日にはコートを作ってあげるつもりだと言った。
それでアタシは、毎年やっていた顧客のパーティーの時に着るドレスを一色君にオーダーしてみる事にしたのである。
ささっと採寸をしてくれて、生地だけ確認させてくれたら、デザインはすべてお任せするよと言ったら目を輝かせた。
仕上がったドレスはとても個性的な物で、メリハリのない体型をカバーするようにいくつもの四角いスポンジが縫い込まれていた。
(みつかったら、そのうち画像を載せます)
男性縫製の技術者は、本当はデザイナー志望が多いのだけれど、なかなか難しい。
それでも、おやゆび姫の王子のように、自給1000円そこそこでも、ミシンを踏み続けるのである。
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