それはたしか、アタシが小学校の1年生の頃だったと思います。 幼稚園の時にはスモッグのような制服がありましたが、小学校は毎日私服でしたので、翌朝に着るものは枕元に準備しておく事になっていました。
アタシに割り当てられていたのは、洋服タンスの下にあった二段の引き出しの1つでした。 秋も深まる季節になると、トックリのセーターやウールのジャンパースカート等に衣替えされていました。 迷うほど衣装持ちではありませんでしたけれど、組み合わせがおかしいと、「そのスカートには白いタイツでしょ?」と、母から言われてしまうので、毎日慎重に選んでいました。
アタシの亡母は、親友のOさんのお宅で洋裁を習っていました。
ある日の事、学校から帰宅したアタシに、母が言いました。
「ほら、これを作ったから明日着ていきなさいよ。ね。名前の頭文字が付いてて可愛いでしょ?」渡されたのは、少しオレンジが混じったような薄いピンクのジャンパースカートでした。きれいな色でした。左右にポケットもついていて、左側のポケットには、赤いアップリケと小さな黄色のアヒルが刺繍されていました。アップリケはUのアルファベットでした。
アタシは、このジャンパースカートに白のトックリセーターを合わせるのが好きでした。ふんわりと柔らかい着心地も気に入っていました。
そんなある日、クラスで学級委員をしていた女の子に言われたのです。 「名前の頭文字だったらYだよ。Uじゃないよ。」
それは衝撃的な言葉でした。ゆ で始まるアタシの名前の頭文字がUじゃない!
ローマ字を学習したのが何歳だったか覚えていませんが、アタシはその間違えについて、母に聞くことが出来ませんでした。
何故ならば、亡母は常日頃から 「学校の先生が何度も親に頼みに来てくれたけど、貧乏だったから高校には行かせてもらえなくてさ…ゴムの工場に働きに行ったのよ。そこで鼻を悪くして、仕方がないから映画館で切符を売る仕事に替わってさ…」
同級生と一緒に高校へ進学したかったはずの母でしたから、アタシは頭文字の事を言いませんでした。
文字が違っている事を知った後でも、アタシはこのジャンパースカートが大好きでした。 はるか昔、40数年前のUの思い出です。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。