奥行60センチ

　今、一番欲しい物は何か？　と訊かれたら、迷いなく　時間と答える。

とにかく足りないのが時間だ。

今日は朝から手紙を書いたりしていたが、途中で切り上げて台所へ。

先に済ますはずの台所仕事を始めたら、もうこの時間だ。
あと２～３時間もしたら、もう夕方なのだから驚く。

その昔、中古のマンションを購入して、内装をフルリフォームしたことがあった。
今で言う、リノベーションというやつだ。

紙と定規と鉛筆と消しゴムを使って、希望の間取りを描いた。
ずいぶん手直しをしていただいたのだが、お願いした工務店さんは、図面通りの間取りを作り上げてくれて嬉しかった。

4人家族には、決して広くは無い部屋だったので、なんとかして居間を広げる工夫をした時に、一番コンパクトにしたのが台所だった。

台所に一番長く居るのはアタシで、そこは寛ぎスペースではなくて戦場のような場所だったから、効率的に戦えるのにはどうしたら良いかと考えた。
流し台に向かって、振り向けばすぐにお皿や調理用鍋に手が届く。
その為に歩かない。
計ってみたら、その奥行きは60センチだった。

この60センチの奥行の中を、右へ左へと動いていたわけだ。

そうして、今の台所も、食器棚代わりにしている棚を背に、流し台との奥行きは約60センチだ。

今やっと一息ついているわけだけれど、この台所で格闘している自分を思い浮かべると可笑しい。

まるで　蟹だ。

ハサミでは無くて、包丁片手に横歩き右往左往の蟹のようだ。

時間が足りないと感じるアタシにとって、広々とした台所は必要が無い。

数歩の移動も、時間に置き換えれば、馬鹿にならないという事なのである。